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03/20: 桜染め

 こんばんは、こえびすです。

 九州や四国や東海では続々と桜の開花の便りが届いています。僕も今朝、窓を開けたら「ホーホケキョ」という鳴き声を聞きました。東京も都心を少し離れると、うぐいすがいるんですね。思わぬところで初の訪れを告げられて、ちょっと嬉しくなってしまいました。

 春になると必ず思い出すエピソードがあります。中学校の頃に国語の教科書で読んだ、桜の樹皮で草木染めをするおばあさんのお話です。志村さんというそのおばあさんは、毎春、桜の木の皮を煮出してその煮汁で染め物をするのですが、不思議なことに、染め物の桜色は、桜が咲く直前の木の皮を使ったときが一番きれいなのだそうです。桜が今まさに咲かんとするとき、花を色づかせるための力をゴツゴツとした幹の皮の中にそっと秘めているのかもしれません。 寒い冬を耐えて、春に一斉に芽を出したり花を咲かせたりする植物の、人知れぬ生命力に、中学生の僕は強く心打たれたのでしょう。未だに春になるとそのことを思い出すんです。
 そう思ってみて見ると、まだ花を咲かせていないのに、このごろ桜並木がほんのりと赤く色づいているような気がしませんか?何も語らないけれど、植物もちゃんと季節を知っているのだな、と思うと、何だか草にも木にも興味がわいてきます。

 探してみたら案外簡単に当時僕が読んだ文章が出てきたので、載せておきます。なかなか感動的な文章です。

*    *    *

 京都の嵯峨に住む染織家志村ふくみさんの仕事場で話していたおり、志村さんがなんとも美しい桜色に染まった糸で織った着物を見せてくれた。そのピンクは淡いようでいて、しかも燃えるような強さを内に秘め、はなやかで、しかも深く落ち着いている色だった。その美しさは目と心を吸い込むように感じられた。

「この色は何から取り出したんですか」
「桜からです」

と志村さんは答えた。素人の気安さで、私はすぐに桜の花びらを煮詰めて色を取り出したものだろうと思った。実際はこれは桜の皮から取り出した色なのだった。あの黒っぽいごつごつした桜の皮からこの美しいピンクの色が取れるのだという。志村さんは続いてこう教えてくれた。この桜色は一年中どの季節でもとれるわけではない。桜の花が咲く直前のころ、山の桜の皮をもらってきて染めると、こんな上気したような、えもいわれぬ色が取り出せるのだ、と。

 私はその話を聞いて、体が一瞬ゆらぐような不思議な感じにおそわれた。春先、間もなく花となって咲き出でようとしている桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしている姿が、私の脳裡にゆらめいたからである。花びらのピンクは幹のピンクであり、樹皮のピンクであり、樹液のピンクであった。桜は全身で春のピンクに色づいていて、花びらはいわばそれらのピンクが、ほんの先端だけ姿を出したものにすぎなかった。

 考えてみればこれはまさにそのとおりで、木全体の一刻も休むことのない活動の精髄が、春という時節に桜の花びらという一つの現象になるにすぎないのだった。しかしわれわれの限られた視野の中では、桜の花びらに現れ出たピンクしか見えない。たまたま志村さんのような人がそれを樹木全身の色として見せてくれると、はっと驚く。

(中学校『国語2』、光村図書出版、平成3年版)



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わたしもこの話、良く覚えています!
05/02 10:35:05

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